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東京高等裁判所 昭和24年(新を)859号 判決 1949年12月03日

控訴人 被告人 保坂速夫

弁護人 富田数雄

検察官 渡辺要関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審に於ける未決勾留日数中百三十日を被告人が言渡された懲役刑に算入する。

当審に於ける訴訟費用は全部これを被告人の負担とする。

理由

弁護人富田数雄の控訴趣意は同人作成名義の控訴趣意書と題する末尾添附の書面の通りである。これに対し当裁判所は次の如く判断する。

第二点判示第三の事実について被欺罔者でない中込はつの供述調書が証拠として採用せられておることは所論の通りであるがかような証拠により供述者以外の人が欺罔されて錯誤に陷いつたことを立証することは採証法上違法でない。従つて原判決には所論のような採証の法則に違背した違法はない。論旨理由ないものである。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第二点更に原審判示事実中第三(起訴状第三事実)たる被告は昭和二十三年十月一日頃中巨摩郡鏡中条村八一〇番地知人中込はつの方に於て同人の母とめに対し三町村三之条演芸会に使ふのだから、はつのさんの春の演芸の時着た着物を貸して呉れと詐称し男物黒無地袷着物一枚外一点を騙取したと言う事実に付其証拠として中込はつのの司法警察官の聴取書中同人の供述を援用して居りますが当時被告が嘘偽の事実を申向けたのは右の供述者たる中込はつのにあらずして同人の母とめなること起訴状記載の通りであります。

果して然りとせば被告が詐称した申出により錯誤に陷り因て被害物件を交付するに至りし事実は中込はつのの母たる中込とめ自身の供述を以て証拠となさなければ詐欺罪の要件たる錯誤並に之に因つて物件を交付せしめたとの事実は立証されては居りません。果して然らば原審判決は本件詐欺罪に対し採証の原理を誤り被害物件の所有者の供述を以て証拠となし其結果として詐欺罪の成立要件たる錯誤並に錯誤と物の交付との因果関係に付証拠なき処に犯罪を認定したるものに外ならず。

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